飲食店では店主と他が全員アルバイトという構図も珍しくありません。
また比較的少人数(10名以下)という店舗が大半を占めており、万が一問題が起きても大企業の様に表に出ることがなく対策や情報が少ないもの事実です。
コンビニなどでは当たり前になった外国人スタッフですが、外国人雇用の際は多くの書類の確認、実際に労働に当たる際にも多くの制限があります。
もし、知らずして法律を破っていたとしても「知りませんでした」では通用しません。
そんな飲食店の労基に関して、経験則を交えてわかりやすく解説していきます。
かなりボリュームあるので、複数回、項目ごとに解説していきたいと思います。
そもそも労基とは何なのか?
労基とは、釈迦に説法かもしれませんが「労働基準法」のことを指します。また場合によっては「労働基準監督署」の事を指す場合もあります。
労働基準法とは
書いて字の如くと申しますか、労働をさせる場合の基準を決めた法律のことです。
労働をさせる側に守らせる、労働者を保護する法律です。
この法律は古く、基盤ができたのは昭和22年、西暦で1947年ですので、戦後すぐのことです。
日本をはじめ多くの場合は、どんな場合であっても契約自由の原則というものが働き、契約は自由に決めることができるのが原則としてあります。
雇用者と雇用主の間には、労働をする。という契約を結び雇用し労働をする。させる。の関係となります。
すなわち、原則に基づけばどんな雇用条件であっても、本人が問題ないとして契約を締結すれば問題ないのが原則です。
しかし、この原則に関しては対等な力関係等が根底にあり、こと労働において、雇用主(すなわち店主や会社)と雇用者(従業員)との力関係があまりにも差が有りすぎるとして、法律で規制をかけている訳です。
労働基準監督署とは
簡潔に説明すると、労働基準法を雇用主(店主や会社)が守っているかを監督する国の機関です。
労働基準監督署の監督官は、特別司法警察職員という権限が付与されています。
すなわち、店主をその場で逮捕できる権限を労働基準監督署の監督官は有しています。
何もなければ問題ありませんし、基本何もなければ監督官が臨検することは、ほとんどありません。
しかし、万が一何か問題が発生していたり、何かの流れで監督官が来たりする場合は、事前の通告はないと思っていた方がいいです。
労働基準監督署の臨検はあくまでも「確認」ですので、犯罪捜査が主ではありません。よって捜査令状を必要としません。
すなわち、言い方は悪いですが、監督官の気分で立ち入り検査をしようと思えば出来るというわけです。
飲食店が気にしないといけない基準
労働基準法は、第13章まであり、第115条まである非常にボリュームある法律です。
全て覚えておいた方が良いんですけど、覚える労力と実際に得られるモノとの乖離がすごいので、飲食店が覚えておかなければいけない部分だけ抜粋して説明します。
興味がございましたら、一番最後に労働基準法のPDFリンクを貼り付けておきますので、ご覧ください。
1、差別・区別の禁止
※実際には複数の章で分けられて記されていますし、実際は別の表現ですが、分かりやすく解説するために分かりやすい表現にしています。
性別や人種を理由として、賃金を差別的扱いにしてはいけない。
ようするに、女性だから男性の賃金の8割です。外人だから。一般の7割です。という具合に差別や区別をしてはいけない。ということです。
一般的な飲食店ではあまり見かけませんが、例えばキッチンは女人禁制的な雰囲気を出しているレストランがあり、技術職だからと言ってキッチンの賃金を高く設定しているとします。
女性従業員が、キッチンの方が給料良いし、私料理できるのでキッチンに行かせてください。
と言ってきた場合、「女性はダメだから」と言うと問題になります。
この申し出を断るとするならば、人手が足りている。ホールが足りていない。など
現実に発生している内容で断るしかありません。
仮に、ホールが充足しており、キッチンが不足している場合であれば、この申し出は基本的に承諾するしかありません。
(他に理にかなった理由があるのであれば問題ありませんが。申し出た女性従業員がホールでは中心的な存在で、女性従業員をキッチンに回すとホールが回らない。など
最終的に申し出た本人が納得できる理由であるかないかがポイントとなります。)
2、強制労働の禁止
脅迫や暴行など従業員の意思に反して労働させてはいけない。
この内容は注意が必要です。
極端な例ではありますが、いつも厳しい店長が気の弱いAさんに、今度の土曜日なんで休み希望を出しているんだ!人も足りてないし、忙しいの分かっているだろ?働けるよな?
この場合、労働基準法の第5に抵触する可能性があります。
精神的に従業員に対して圧力をかけて、元々休み希望を出していた日に強制的に勤務させていることになります。
飲食店だけではありませんが、この様なシチュエーションは往々にしてあろうかと思います。
ポイントしては、言った本人(店主)がどう思っているかは関係ないという部分です。
店主がお願いベースで言ったつもりで、断られていたらBさんにお願いするつもりだった。と言ったとしても通用しない。というわけです。
シフト減らすぞ!なども実際にシフトを減らさないとしても、問題にはなりますので、注意してください。
無論、本当にシフト減らしたら大問題です。
3、条件の明示
労働条件を明示する必要がある
ようするに、どのように勤務していただくのか?を明確に示す必要があります。
個人経営の飲食店などで、極稀に見かけるのは、口約束などです。
「働きたいです」
「OK!分かった!明日から来れる?」
「いけます」
「じゃあ明日の15時に店に来て」
で、勤務スタートする。という様な流れです(ちょっと極端ですが)
このやり取りの中には、雇用期間、賃金、労働条件が全く盛り込まれていません。
口頭でのやりとりでも契約は成立します。
が、雇用主(店主)は、労働者にどのように勤務してもらうのか?を伝える必要があります。
4、簡単に解雇できない
一度雇用すると「クビ」という一言では解雇できない。
「明日から来なくていいから」
「もうお前はクビだ」
と、ドラマの世界でよく耳にしますが、基本的に一度雇用すると相当な理由がない限りクビにできません。
厳密のは、クビにはできるけど30日前には伝えなければいけない。ということになります。
もし、「明日から来なくていいから」と伝え、本当に来なくてクビにしたとします。
その場合、この「明日から来なくていいから」と言ってしまった日から起算して30日間の平均賃金を従業員に支払わないといけなくなります。
ちなみに、この相当な理由とは、倒産、閉店、天災などの本当にどうしようもない理由とされています。
5、賃金支払の5原則
直接、本人に、日本通貨で、月1回以上、決まった日に。
高校生だからと言って、親に給料を払うのはダメです。
本人があまりシフトに入っていないからと言って、違うスタッフに渡しといて。というのもダメです。
あまり無いとは思いますが、ドルで払うのもダメです。
今月の給料10万円だから、この10万円相当の腕時計を渡します。もダメです。
今月キツイから今月なしで、その分来月払うね。もダメです。
今日お金あるから、今日給料払っとくね。もダメです。
6、休業手当と歩合でも支払う義務
雇用主(店主)の理由で休業する場合は、休業手当を支払う必要がある
仮に店主が体調不良などで休業した場合であっても、従業員には60/100以上の手当を払う必要があります。
出来高や歩合の制度を行っていても、最低限労働時間に対しての賃金を払う必要がある
7、労働時間と休憩時間
1日8時間以上勤務させてはならない
えっ!俺10時間ぐらい働いているで。という場合は36協定と言われるものが締結されています(ちゃんとしているところであれば)
36協定を締結していると、ある程度の残業は認められますが、36協定を結んでいても、残業代(割増賃金)は支払う義務があります。
6時間を超える勤務の場合は45 分、8時間を超える場合は1時間の休憩時間を最低与える必要がある
原則としては、全員一斉に与える必要がありますが、労基に届け出している場合は別々でも問題ありませんが、その場合は、休憩行きたいです。と言われたら休憩に行かせないといけません。
8、休日の付与について
週1日以上休みを与えないといけない
極論ではありますが、1週目の月曜日に休みを与え、その週6連勤してもらい、次の週は月曜日から6連勤してもらって日曜日に休みを上げた場合(12連勤)でも問題ないと言えば問題ありません。
が、従業員のモチベーションを考慮すると避けたいシフトではあります。
元々ボリュームある法律ですので、かなり多くなっていますが、これでもまだ半分に至っていません。
深夜割増賃金や高校生などの勤務制限など多くあります。
本当に最低限覚えておかなければならなく、無知ゆえに犯してしまう内容を列挙しました。
実際に、私が店長をしているときは、上でいう2番(強制労働の禁止)と4番(簡単に解雇できない)で、従業員と揉めたことがあります。
私が統括マネージャーをしているときは、7番(労働時間・休憩時間)で新人店長や営業色強い店長の店舗で問題になり、解決するのに数ヶ月かかったってこともありました。
飲食業界は、対人の職業ですので、規則的に業務が進むことがまず無いと言ってもいいでしょう。
団体が来て忙しくなった。予約が想定以上で休み返上させた。忙しいから感情的になって言ってしまった。など。
ただ、日々の従業員とのコミュニケーションが良好であれば、1つや2つの事で、大きな問題になることは、まずありません。
ようするに、店主が日々、従業員、スタッフの事を思って行動し、労基に則して経営を行っていれば、一時の感情で思わず「もう来なくていい」と言ったとしても、その後の謝罪、話し合いで基本納まります。
雇用契約書に明記しなければいけない項目
雇用契約書を作成するとは言っても、念書書いてもらうなどではダメです。
最低限盛り込まないといけない項目をまとめます。
飲食店にフォーカスをあてており、この内容はアルバイトスタッフやパート向けです。
1、雇用期間
いつからいつまで雇用するのか?という項目です。
労働基準法では1年以上の期間で設定することを制限していますので、1年で一旦雇用契約書を作成した上で、契約を結び、1年毎に雇用契約書を更新することがベストです。
2、働く場所、業務内容
どこで働くのか?どんな業務をさせるのか?という項目です。
飲食店であれば、調理補助および接客と記載しておけば基本的に問題ありません。
3、勤務開始時間と終了時間
何時から何時まで働くのか?という項目です。
基本的には、開店時間から閉店時間(+30分 締め作業の時間)で記載しておけば問題ありません。
4、休憩時間と残業の有無
記載のままの項目となります。
先述した通り、6時間で45分、8時間で60分の休憩を最低与える必要がありますので、その部分をクリアしていれば問題ありません。
また、8時間以上の勤務が発生しうる場合は記載必要です。(残業あり)なければ(残業なし)と記載します。
5、休日、給与の記載
週何日以上の休日を与えます。という項目です。
こちらも先述した週1日以上の休日は、最低基準ですので、こちらはクリアする必要があります。
6、賃金の支払い方法
賃金の締め、支払日、給与計算、支払い方法という項目になります。
いつからいつまでの期間の給与を何円の時給でどうやって支払うのか?を記載する必要があります。
毎月15日締め
毎月月末支払い(月末が週末等の場合は、翌営業または前営業)
時給950円
本人名義の銀行口座に振り込み
と記載すれば問題ありません。
7、退職に関すること
退職を申し出る場合は◯日以上に言ってください。
◯◯の場合は、法律に基づいて解雇通告の上、解雇します。という項目
退職の申し出は概ね、法律の解雇通告にあわせて30日前としている場合が多いです。
解雇の事由の記載は、健康不良、解雇相当と判断する場合、その他社会通念上などと記載しておけば問題ありません。
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